黒き蝶/杉菜 晃
 

黒い蝶が吸ひ上げられて行く
だが 有り体に言へば
光に包まれて人影が降りてきたのであつた
目が眩み
意識も遠くなるうちに
女の見たものは
いにしへの書にいまだ神を見たものはゐないと
謳はれてゐるその神 栄光の神の顕現

かくして黒き蝶は捕らへられた
神の手に
降り注ぐ木漏れ日のなか
意思あるもののごとく
意思なきもののごとく
しづしづと羽を開け閉めする黒き蝶
黒アゲハてふ 女


 
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