焼き付ける/松嶋慶子
 

夏の終わりの河原は
餌付けされて、もはや野生とは呼べない鴨たちの
小競り合いを眺める人、も まばらで
あなたは
鴨と
餌をまくジャージ姿の老人を眺めて
微笑んでいた
すこし曲がったその背に
かつて負われた私は
とうにあの日のあなたをも越えてしまった

月日は
二人から何を奪い
何を授けたのだろう
振り返るあなたの
夏を振り返るあなたの横顔に
今、
このときのあなたを
この目に、
胸に、
脳裏に
焼き付けなければならない、と
私は身を堅くして
あなたを
ただただ
あなたを見ていた

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