角度/山本 聖
その日
斜めの陽光が胸の中を通過するのを感じたわたしは
わたし自身も斜めになってみて
光を逆に通過せんと試みる
にじいろの魚を、瞳を輝かせる子供たちに売る怪しげな商人のようだ
絵の中からおおかみが躍り出るぞ、と脅しながら語る紙芝居屋のようだ
傾くと色の変わる水に満たされた魔術的詐欺師のガラス瓶
水、といえば
世界のどこかで洪水が起こる度に
ひとと家と豚と羊と樹木と宝石と昆虫と義足と土くれと子猫と声と
どうでもいいものと何だかよくわからない物体と女の丸い尻みたいなものが
ごったになって仲良く斜めに流れ
かつて垂直だったお互いを爆笑するよな
角度は常に流動していて
そのくせ
熱に浮かされた感情移入にまみれて遡りつづけながらも
決して振り向かない
その日
真夜中に無言の電話を受け取ったわたしは
首を微かに傾けて一晩中、強迫的無言であなたをからかった
鋭角には、なりすぎないほうがいい
鋭角に、なりすぎるほどにはなりすぎないほうがいい
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