夜の傾斜/塔野夏子
 
くなる
とたんに私はひとのかたちをとり戻す

そこからは平らな道だ
いや廊下というべきか
なぜなら両側に
同じドアがいくつもずっと並んでいる

そのあいだを通って歩いてゆく
扉はどれも閉まっている
扉には数字がしるされているけれど
通りすぎた瞬間に忘れてしまう

このあかるい廊下は果てなくつづくように見えるのに

気づくとまたふいに
夜の傾斜に戻っている
私は幼生のかたちになって
暗い傾斜を這いおりている

湿った火はかわらず
ところどころにともっている
そこにいたりいなかったりする獣が
火を嘗めながら
時にこちらを
見たりする




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