夜の傾斜/塔野夏子
 
夜の傾斜をくだってゆく
くだるたびに傾きがちがうような
いつもおなじような気がする

夜だから傾斜は暗い
ところどころに湿った火がともっている
そのそばにその火を嘗める獣が
いたり
いなかったりする

そしていつも私は
気づくと
得体の知れない幼生のかたち
(呪文めいたカタカナ名前でもついていそうな)
になって
夜の傾斜を這いおりてゆく

湿った火の匂いと
そのそばにいたりいなかったりする
獣の息づかいのあいだを縫って
のろのろと這いおりてゆく

すると
ふいに
傾斜が途切れることがある
(いつもではない)

とたんにあたりは夜なのにあかるくな
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