『夏の墓碑名』/橘のの
誰かの突き刺した
その雨傘は
ぱっと見
生き埋めの猫が
しっぽだけはみ出してる様に
似ていなくもなかった
だからというわけでは
ないだろうけど
初老の夫婦が仲良く手を
あわせたり
子供が要らないおもちゃ
をおいていったり
近所の主婦が
おはぎを供えたりする姿を
たまに見かけた
それでも
凡庸な
七の月に
かわりはなく
名が刻まれることはなかったという
最後に言っておこう
あの雨傘は
もうない
ある日の夕立
安物の白いドレスを着た女が
かけあしで
持ち去ったという話だ
そのかわり今は
『はずれ』と書かれた
アイスの棒が
そこに
刺してある
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