初秋風/松本 卓也
 
ほんの少し
冷たさが混じっている
そんな気がした

黄昏の屋上で一服
頂を泳ぐ三色の雲が
足早に視界の端々を渡る

無機質な夏がもうすぐ
幾つかの後悔と共に消え
告げる季節の声に
耳を傾けるけれど

何かが聞こえるわけでなく
脳裏に漂う声の響きを
覆い隠すこともできず

誰も残らなかった夏に告げる別れ
何も待っていない秋を迎えて

伸びた影を踏みにじりながら
振り返る度に零す溜息を
風が掻き消していくのだから

僕はまた独りきりで
夏の残り香を抱きしめたまま
秋を歩こうとしている

後悔を一つ背負い込んで
想いを一つ放り投げ
風を思いきり吸い込んで

むせ返る涙の粒に
寂しさを込めて
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