犬の日々/岡部淳太郎
いているだけであった
誰もがみな
犬のようだった
夏はもう
終ろうとしていた
私の日々も 否応なしに
次の角を曲らされるであろう
だが 私はまだ
呆然とするべき時間の中にいた
求めたものは
月のような疑いを抱えたまま
亡命者のように隠れながら
あまりにも素早く消え去ってしまった
残された私は
濡れて渇いた 犬
そのものである自らの生を
ばらばらになるまで いつまでも
いつまでも 噛み砕いていた
私は優しさを信じない
私は美しさを信じない
しばらくはそうやって
頑ななひとつの野良として
耐え忍ぶだろう
だがいずれ
また別の優しさを
また別の美しさを
求めてしまうだろう
わかっていた
わかっていながら
眼を閉じていた
わかっていながら
座りこんでいた
(二〇〇六年八月)
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