犬の日々/岡部淳太郎
何から何まで
犬の日々だった
私の瞳孔はつねに濡れていて
咽喉の奥はいつも渇いていた
風にさらされて 乾きすぎた手拭いのように
水に濡れた掌を求めていた
何もかもが
犬のようだった
石の置かれた屋根の下で
雨の中にあって 雨を恐れながら
せわしなく首をふっていた
すべてのものが色褪せていて
何か大切なものが通り過ぎた後の
半睡のような倦怠を味わっていた
舐めても 噛みしめても
妙に手ごたえがなかった
何もかもが
犬のようだった
黙っていてはいけないと
そう教えられたので
私は吠えつづけた
だが 誰の耳もみな
堅く閉ざされたままだった
誰もが
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