刀自の刃/蒸発王
 
『未亡人』
という呼ばれ方を嫌った叔母は
高飛車な懐古主義のロマンチストで
まだ幼かった私に

刀自(とじ)

と呼ぶように教え込んだ


『刀自(とじ)の刃』


刀自とは
年老いた女性の敬称で
どこか気取っているのに
憎めない
彼女にしっくりくる呼び名だった

 
 この身に刃を収めている様に
 生きていきたいのですよ


縁側でひっそりと
遠くを見ながら
そんな事を呟く
彼女を呼ぶのに
刀自という名前以上は無かった



十数年たって


還暦を過ぎた刀自は
季節はずれにも
恋を告げられた


相手は
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