刀自の刃/蒸発王
『未亡人』
という呼ばれ方を嫌った叔母は
高飛車な懐古主義のロマンチストで
まだ幼かった私に
刀自(とじ)
と呼ぶように教え込んだ
『刀自(とじ)の刃』
刀自とは
年老いた女性の敬称で
どこか気取っているのに
憎めない
彼女にしっくりくる呼び名だった
この身に刃を収めている様に
生きていきたいのですよ
縁側でひっそりと
遠くを見ながら
そんな事を呟く
彼女を呼ぶのに
刀自という名前以上は無かった
十数年たって
還暦を過ぎた刀自は
季節はずれにも
恋を告げられた
相手は
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(7)