秘名/木立 悟
 

いつかわたしは
わたしから名を与えられた
わたしではないわたしが
鳥のように道に立っていた
地にも 空にも
翼は落ちていた


遠い光の日に
熊は殪された
血は流れ
人の内に入る
地の内に入る


落ちる空を見ていた
手のひらを流れる血の上に
落ちてくる空を見つめていた
ひろい場所にひとり立って
雪のはじまりを見つめていた
崖に映るギリシャ文字
音のようにかがやいていた



生まれつづける船にのって
わたしは誰かの目かくしを取ろう
誰かに目かくしをされていることを忘れることなく
わたしは誰かのうしろに立とう
微笑みかけたものを微笑みにしよう
ふくらみかけたものをふくらみにしよう
見知らぬ名前
わたしの名前
生まれつづける船にのって
生まれつづける海をわたる


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