「 りありぃ。 」/PULL.
もない。
群がりはもぞもぞと蠢き、
離合集散を繰り返しながら、
ひとつとひとつとひとつの塊になった。
ひとつの塊から細い線が伸びる。
ひとつとひとつの塊からも線が伸びる。
線はひとつとひとつとひとつ集まり、
ひとつに縒り合わされ、
ひとつの線となって外へと向かう。
ひとつの線を辿って、
裏庭に出た。
がらんとした庭には何もなく、
くしゃくしゃした穴が開いている。
線は続き、
灰色の欠片を咥えた蟻たちが、
くしゃくしゃした穴に、
消えてゆく。
近付いてみると、
くしゃくしゃした穴は、
大きな耳の穴だった。
それはどこか見覚えのある、
耳だった。
くしゃくしゃした耳からは、
くしゃくしゃした音がした。
ぐらり、
視界が揺れた。
足下には何万もの蟻がいた。
辺りは黒く波打っている。
波は耳の穴へと流れ、
わたしを運んで、
ゆく。
後は深い深い耳の奥で、
いつまでも蠢いていた。
了。
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