綻び/松本 卓也
胸が張り裂ける錯覚を覚えて
思わず心を覗き込んでみると
一本の糸が無造作に伸びていた
今にも切れそうだけど
胸の綻びを繋ぎ止めているのは
この糸だけしかなくて
もし胸を繋ぎ止めた糸を
断ち切ってしまったのなら
空しい心に詰まった声が
いつの間にか心にしまった
古びて錆付いた愛の詩が
これでもかと飛び出るのかな
あの子に伝えられなくて
君に届けられなくて
貴女に聞かせられなかった
やり場をなくしていった声が
他愛も無い陳腐な音が
綻びを少しずつ広げていって
僕なんかの心で生まれなければ
言葉たちも少しは報われ
音を遠くに響かせられたろう
微かな綻びの隙間から
死にかけた想いの数々が
哀しげな声を響かせる
糸は今にも千切れそう
成す術の無い僕はただ
ぼんやりと立ち尽くすだけ
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