つむぎ糸/暗闇れもん
雲は糸で動かされているのよ
これは君が私に残した最後の言葉
ここから見えるあの猫のあくびさえ
君の目には糸が見えた
庭に咲く白い花も
風が動かしているのかと問う君に
軽く答えたときも失笑し
空から伸びる一本の糸、貴方には見えないの?と呟いた
忙しなく歩くサラリーマンの後ろ姿を
もう糸が
そう呟いた君
あのサラリーマンは長くは無いと言いたかったのだね
今なら分かるよ
どうして君に糸が見えたのか
どうして私にこの糸が見えるようになったのか
私達に決めれない定めがあったのか…
ああ、糸が揺れている
しばらくすれば隣の木は葉を落としゆっくり揺れるだろう
娘はもうすぐ一歳になるよ
つむぎ糸
私の糸を使って欲しかった
無数の糸に抱かれている
花につながり
鳥につながり
雲につながり
陽だまりの中
温かく懐かしい気持ちがしている
そばにいるのだね
今もずっと
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