ほしいのはあなただけ/逢坂桜
 




     ある日いきなりあらわれた
    「さぁわたしの手を取りなさい」
     それは白く細い手で
     燃えるようにあかい頬
     
     その手はとても震えてて
    「寒いんですか?」たずねれば
    「夏が寒いわけないわ」
     震える声で微笑んだ

    「どうしてこの手を取らないの?」
     いくぶん涙のまじる声
     なおも震える白い手を
     阿呆のように見つめてる

     ついに涙が頬つたい
    「あなたは手をとるだけでいい」
    「あなたをもとめてるのだから」
     覚悟を決めて「ごめん」と言う

     求められても手は取れぬ
     この恋まもるためならば
     誰の涙もぬぐわない
     そして彼女の恋に謝罪する




戻る   Point(5)