知らないすべて/かのこ
 
ここに生活を隔離する窓と音楽
春も夏も秋も冬も
気付けばもうこんな年寄りになっていた
春も夏も秋も冬も、すべて見ていたようで
本当は何も知らなかった
知らないで恋していた
知らないすべてに焦がれて
ひとつ、音を奏でて幸せだと思った

何も知らない自らに気付いていたあの頃は
ひどく狭い場所で、頼りない灯(ともしび)だけが世界
いつだって初冬ばかりが訪れ
冷たい窓枠に、とても優しくて悲しい歌声が
愛しく触れ、奇怪な音でふるえさせた

遠く遠くに呼ぶ
きれいな隔離の中で、眩暈がこだまし

開放された無色の空に響いた
音楽は、知ってしまったすべてを取り戻した
だから、まだ焦がれている、こんなにも
際限なく恋し、墜落へ、恋し
知らないというすべてに、恋し、恋し
戻る   Point(3)