落陽/結城 森士
に優しい笑顔のままだった。お見舞いに来たことを少し遠慮がちに喜んでくれた。先日のあのメールは、肺の異常に襲われて急に怖くなって送ったのと言って、「深い意味は無いよ」と笑った。三〇分ほど話し、僕は安住さんと別れ301号室を出た。
病院を出ると、涙目の太陽に染められた入道雲が住宅街の上に広がっているのが見えた。振り返ると安住さんのいる白い病室は真夏の街の賑やかな光からも隔離されていて、まるでそこだけ別な空間に浮遊しているような錯覚を覚えた。理由も無く、自分はこれから本当に「生きていくということ」が出来るのだろうかという突発的な不安に襲われ、急な斜面を駆け下りていた。太陽は既に西の空よりも低い。
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