コミック雑誌/光冨郁也
 
椅子で、親戚たちが集まっている。空いている席に戻ると、読んでいたコミック雑誌はなく、そこで、わたしは大人の肩をかりた。
「お兄ちゃんの泣いているところはじめてみた」。
向かいの長椅子の、従妹の声が聞こえる。

四月十日、さくらの花は満開だった。葬儀を終え、三日して、わたしは登校した。みんなが校庭で遊んでいる。
「ねえ、みんなあ、仲間にいれてよ。ねえ」
微笑みながら、そばで大きな声で、何度も繰り返し、訴えたが、だれもわたしの方を、見ようともしなかった。ひとり、玄関の暗い廊下で、目を見開いて、足元を凝視していた。目に映るものが歪んでいた。
何日かあと、さくらの花が勢いよく散った。

病院の前で窓を見上げる。後ろの学校は静かだった。門のさくらの脇に、そっと、コミック雑誌をおいて、いまきた、さくらの並木通りに戻ろうとすると、後ろから吹く風が、わたしを追い越していった。

少年の声がわたしを追い越していく、あのときの、仲間にいれてくれるよう、訴える声、振り返ると、雑誌のページが風にめくれて、音をたてている。









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