菫に寄せる哀歌/杉菜 晃
 
電柱下の掌ほどの地面に
可憐な顔を寄せ集め
行過ぎる車の排気ガスに
小柄な身を揺すつてゐる
菫(すみれ)よ

元来野のものであるおまへたちが
どうして
こんな狭小な場所に
置かれなければならなかつたのか

かく言ふ私も
田舎育ちで
質朴な野の香りも健康さも
十分知つてゐるつもりだが
そこでは身過ぎ世過ぎが出来なかつたから

このとほり
大都市のアスフアルト道に
靴すり減らし
さうでないときは
コンクリートの一室に
寝に帰つてゐるだけといつた現状だ

菫よ
ともに文明社会の痛手を被つてゐるが
ちよつと上を向けば 
そこに控ヘてゐる青空だけは
今も昔も変はらぬ
共有財産とは言へないか

むしろかういつた
報はれぬ現状にあればこそ
天空を仰ぐ心も芽生えるのかもしれない
お互ひ
さう信じて頑張らうではないか

逆境に屈せず
明るく 健気に咲いて
道ゆく人々を慰めてゐる
いとしき
吾が







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