オルフェの夏/石瀬琳々
かつてお前はあんなに
力強く 熱く燃える目をしていたのに
風のように自由で その歌声は若々しく
どこまでも駆けていけたのに
お前の炎はかくも色褪せ
かきならす竪琴は銀のささやき
お前は頭(こうべ)をたれる お前の項(うなじ)にくちづけするものに
かつて失われた恋は
樹間に白い素足をかいま見せ
忘れた頃にお前の魂を衰えさせる
風の玲瓏(れいろう)に指先をのばし
なつかしいあの白い指先を捉えようとするけれど
木の葉のいたずら それは光の翳り
満ちてゆくものにお前は後ずさりして
それでもなお手をのばす 魅きつけてやまない面影に
カルナバルは終わろうとしている
お前のため息に新しい世界が生まれ
お前の涙に新たな色彩が輝きはじめる
エウリディケの指先に
裏切られゆく 夏のかなしみ
オルフェの夏よ
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