石 【ici】/山本 聖
夏のおわりが近づいたのだよと雷鳴が耳元で囁いた夜
わたしは小さなわたしの左の乳房にもっと小さな小さなひとつの石を見つけました
まるで岩陰に潜んででもいるかのようなこどもの石です
いつのまにこんなこどもをじぶんの胸に育てていたのだろうと
わたしはそれを右の手で静かに慈しみます
けれどこどもの石は泣いて泣いて
そんなんではないのだ、と
そんなんではないのだ、と
ではどんなんだ、と撫ぜあげれば
ごぉろごぉろと轟く空みたいに不毛な痛みを訴えつづける
むずかるこどもというのは、こんなんでしょうか
左の胸の、こころの近くですすり泣く
わたし自身の石の部分のような姿をしたこどもとは
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)