『ささやかなその両手につつまれて』/角田寿星
みごとなパウル・クレー
の天使だ。そして胸のまえでさりげなく組まれた両方の手
のひら。
ぼくはそこでクレヨンが止まった。天使がなにを大切そう
に持っているのか ぼくにはわからなかったのだ。
手のひらの間の微妙な距離にはじめて気付く。まっしろの
透明な空間になにかが確かにあったのだ。
妻は娘をだっこする。ぼくは妻をだっこする。そしてぼく
は誰かにだっこされる。だっこの陶酔感。
娘がぼくの天使の絵の上に 赤いクレヨンでおおきな円を
何個もかいた。天使の手のひらをはみだして 画用紙から
もはみだして。
いつだったか ぼくの好きな評論家が「日本人はクレーが
好きで困ったもんだ」と言ってたのを思い出した。
おおきなお世話だ。
戻る 編 削 Point(11)