『ささやかなその両手につつまれて』/角田寿星
 
みごとなパウル・クレー
の天使だ。そして胸のまえでさりげなく組まれた両方の手
のひら。

ぼくはそこでクレヨンが止まった。天使がなにを大切そう
に持っているのか ぼくにはわからなかったのだ。
手のひらの間の微妙な距離にはじめて気付く。まっしろの
透明な空間になにかが確かにあったのだ。
妻は娘をだっこする。ぼくは妻をだっこする。そしてぼく
は誰かにだっこされる。だっこの陶酔感。

娘がぼくの天使の絵の上に 赤いクレヨンでおおきな円を
何個もかいた。天使の手のひらをはみだして 画用紙から
もはみだして。

いつだったか ぼくの好きな評論家が「日本人はクレーが
好きで困ったもんだ」と言ってたのを思い出した。
おおきなお世話だ。
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