『ささやかなその両手につつまれて』/角田寿星
娘のおえかき画用紙に 黒いクレヨンでおおきく ぼくは
パウル・クレーの天使の絵をかいた。
単純なモノクロームの曲線。いくぶん丸みをおびた輪郭。
やさしく閉じたひとみ。かるくほころんだ口もと。
「さくらんぼさん?」
「ううん、天使」「てんち」
おおきな三角形の翼。いつしかぼくはことばに出して絵を
かいていた。ほら まっすぐに突きだした四角い胸。ほら
こころなしか背は まるまってる。
らくがきにもってこいの「やさしい」絵。娘に言いきかせ
るように 歌でもうたうようにぼくは天使の絵をかく。
「むつかしいね、やっぱり」
「むむかしねー」
どこに出してもはずかしくない みご
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