冷灰の巷/吉岡孝次
 
金色のマテリアと乳白色の幼体群を格納した、
寓話の種「蜂」の巣を模したかのようなジュンク堂書店で
旧世紀 父の遺したネクタイを緩めながら
新訳されたアダム・スミスの、課税に纏わる明察に舌を打ち しかし
二行で背表紙をまた揃え直して
何だか疲れてしまい 炎暑の谷を、恋う。

涼やかな商人の塔で
歌姫の記録と 連載を終了した単行本の続きを

購うことで映し出される魂は肉も薄くて
どこにでも滑り込めるが

熱い棺、としての人生は 現世ではなく
冷灰の巷へ。

時の、見えない壁の向こうへ。


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