心の器/九谷夏紀
重くなるばかりのその存在を
もてあましては疲弊し
しかし他にすべはないまま
心にはからっぽになった白い器が傾いていた
しかしもう迷うことはない
こうして見えるものすべてに忠実でいさえすれば良いのだ
これまではこれを手にするためにあったのだ
そうして心の器は割れた
満杯にはられていた水は
私のからだじゅうを巡って
干上がった私のからだは潤う
器にかわってあらわれたのは
すきとおった軽反発の水性円形固形体
常に同じ形状に私の心を保つだろうことは
物質の性質上明らかだ
私の肉体は水を得た
私の神経細胞は意識の統率から解き放たれ
自ずから本質のみを捉える
「意識よ、もう本来の居場所にもどれ
そして私が危機の際には君の力も借りるとしよう」
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