心の器/九谷夏紀
すべてを捨てたそのときに
心の器は濃く染まった
ここには今後、日々見つけた
きりりとした水だけを
一滴一滴入れていこう
少しずつ溜まる水滴に
事物は次第におおきく映り
やがて心の器には
あふれるほどの水が満ち
未知なることは無垢のまま
既知はあらたな事実にして
すべて私に与えなおした
おぼろな瞳は
素朴な直線の視点となって
息をころして瞼を見開く
ことさらにおおきく色あざやかになった
生物とそれらがつくる事象を目にして
それは私の意識を拠り所としていては
決して立ち入ることのできなかった空間
理性や理屈の強靭さを私の意識は求めたが
重
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