マーキング/大村 浩一
間、僕の救命ボート役を果たした
黒ずんだ小さな木造アパートは、
屋根に苦心して立てたTVアンテナごと、
アーバンなんとか言う無理矢理3階建ての
ワンルームマンションに建て変わっていた。
つい一年ほど前だとか。
乗ってきて沈んでしまったボート。
再開発で埋められてしまった線路。
耐震性不良で建て替えられた学校。
新しい偽大理石に覆われていく街で、
来た道が消え失せてしまうほど
生きのびたんだ。
只の勤め人の、
この僕が。
なんだか熱い感じがする。
ベンチに足を放り出して。
うふふふふ。
いいもんだ。
いい気分だ。
もう引き返さなくて良いのは。
痺れる夏の太陽が来る。
初稿 2006/08/12 白井明大ワークショップ『黄いろの日』
改稿 2006/08/17
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