誕生日/ゼッケン
 
らおれは手首を切った
死にたくなったわけではなく
自分が生きていることを確かめてみただけだった
痛みは分かりやすかった
たいへんによろしかった
腕や胸や足の傷に気づいた友人がおれを病院に入れてしまった

臨月を迎えたおれは病院の清潔な部屋で安らかに過ごしていた
胎児の鼓動はおれの神経をすっかり乗っ取ってしまった
メソポタミアの遺跡の冷たい石の床に耳を当ててすませば
同一の存在による呼びかけがはるか地底よりいまも聞こえてくるだろう
ときどき、おれの眼球は内側から蹴られてポコンと飛び出した
看護婦はやさしくおれの眼を押し戻すと、おれの頬を伝う涙を丁寧にぬぐってくれた
おとなしくなったおれの周囲には友人たちが昔のように集まってきた
女はおれにキスをした
みんな、ありがとう
生まれてきたのが男の子だったらモてるように仕込んでやってくれ
女の子だったら何度も泣かずにすむように叱ってやってくれ
おれはもうすぐだ

おれの脳が外気に触れ、産声を上げる
産声はおれの口からも上がった
おれは必死に泣いた
延髄につながったへその緒が切られた
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