湘南、夏/銀猫
浜辺に群がる人波が
ひとしきりうねって退いたあと
待ち兼ねていたように
波音は膨らみ
熱を孕んだ砂の足跡も風に消されて
浜は打ち上げられた藻屑の褥(しとね)になる
風が
湿り始めた
波打ち際のはかない泡の子らが
くすくすと笑い声をあげ
弾けては
また無数に散らばってゆく
七里ヶ浜の夏にいる
喧騒を癒す海風に恋がれていた
いつからか
この海にこうも恋がれていた
丸みを帯びた水平線の前では
わたしはこんなにもちいさく
取るに足らない砂のひと粒なのだ
質量を持て余すこころが
砂粒をうらやんでいたのかも知れない
青に呑まれ
波にさらわれ
浮き沈む
夏にいる
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