月面観測/嘉野千尋
 

   月ではまだ
   冬の初めで季節が
   止まっているようだった


   浅い眠りの合間に
   この頃よく、夢を見る
   凍えたままの月面で
   あなたをこの腕で抱きしめる
   そんな、夢を


   望遠鏡を覗いては
   昇りきる前の月を探した
   傷ついたままの姿を見ていたら
   あなたを想わずにはいられなかった


   磁気嵐の夜に
   瞳を閉じて耳を澄ましている
   ふと途絶える衛星からの電波
   流星が夜空を裂いていく音
   あなたの呼ぶ声
   幻の


   望遠鏡を覗くその一瞬に、いつも思う
   あなたを愛するこの心が
   どうかわたしから
   あなたを奪っていきますように


   月ではまだ冬の初めで
   季節が止まっているようだった


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