近代詩再読 村野四郎/岡部淳太郎
た孤独感を表出した詩の系譜に連なるものと思われる。
鹿は 森のはずれの
夕日の中に じっと立っていた
彼は知っていた
小さい額が狙われているのを
けれども 彼に
どうすることが出来ただろう
彼は すんなり立って
村の方を見ていた
生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である
大きい森の夜を背景にして
(「鹿」全行)
これはそのひとつ前の詩集『抽象の城』(一九五四年)に収められた「さんたんたる鮟鱇」と同じように、いままさに死につつある動物を描いたものであろう。「さんたんたる鮟鱇」では「見なれない手が寄ってきて/切りさいなみ 削りとり/だんだん稀薄
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