リターン/AKiHiCo
初からなかったのに
キミは僕に何を期待していたと
睫に刺さった光の粒がきらきら煌く
キミは抵抗する事さえ出来ない身体になって
視界を遮る長い髪さえ振り払えないでいる
白いシーツに埋もれたままの
冷たくなってゆくだけの
名前も知らないキミは僅かな灯火で
呼吸をやめないけれど
それももうすぐ終焉を迎えるだろう
魂を受け渡す橋でどちらへゆくべきか
戸惑い立ち竦むキミはどうして怯えている
全てを振り解いた心に迷いなどあるはずもないのに
僕が誘ってあげよう
さあ瞼を閉じてしまえばそこは誰もいない世界
心は在るべき場所へと還ってゆく
身体は僕がずっと抱きしめていよう
指先から溶け出す悲しみを全部吸い上げて
キミの心が消えるまで抱きしめていよう
空になったらあの蒼穹へと
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