堕在・黄色い壁の家/銀猫
水鏡の裏側からわたしは見ている
黄色い土壁と
くすんだ緑の屋根を
潅木の足元に散り落つ白薔薇を
誰かの足音は
水面に波紋を広げるのだが
雨のひと粒ほどに
まるく響きはしない
苔や濡れた髪のような水草の茂る
豊かな池は
すこしぬるく
剥がれた鱗に優しい
ここに泳いでいると
時は留まり
木の葉の色合いだけが
季節の知らせを届ける
水鏡の奥からわたしは見ている
動かぬ黄色の壁と
明暗に忙しい空とを対比して
暦を数えることもなく
揺れる水面を見上げている
あなたは
時折、水の表を切る背びれを
憐れと呼ぶのだろうか
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