帰路/古河 セリ
 

おもくながい 風は
淀んだ空気を気だるくふるわせながら
駆ける一輌の列車の脇で寛いでいるように思える


浮ついて上気した 私は
正気に戻ろうと
よろめく身体を夜の灯に預け
轍を抱くように
北の国をめざして転がっていくよう


主語のない 感情は
生涯をその性質から
終えることはなく
時と並んだまま
そのまま
色褪せずに歩んでいく
訣別を覚えることなく


山奥のひんやりとした 風は
引いては寄せる波のように
くうかんを満たしながら
しかし
泡のように儚く思えてしまう
今日という日は


キビタキが飛んだ 夏は
ハナミズキが香る
今という時だけは
キンモクセイが懐かしい


ながいながい 帰路は
孤独と呼べるほどには浅い
私の存在を、気持ちを
線路敷きの上に置いて
どこにもいかぬ砂利のようにさせて


目覚めと忘却は
名もなき駅名を渡りながら
つないでいく、おくにおくに



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