帰路/古河 セリ
1
おもくながい 風は
淀んだ空気を気だるくふるわせながら
駆ける一輌の列車の脇で寛いでいるように思える
2
浮ついて上気した 私は
正気に戻ろうと
よろめく身体を夜の灯に預け
轍を抱くように
北の国をめざして転がっていくよう
3
主語のない 感情は
生涯をその性質から
終えることはなく
時と並んだまま
そのまま
色褪せずに歩んでいく
訣別を覚えることなく
4
山奥のひんやりとした 風は
引いては寄せる波のように
くうかんを満たしながら
しかし
泡のように儚く思えてしまう
今日という日は
5
キビタキが飛んだ 夏は
ハナミズキが香る
今という時だけは
キンモクセイが懐かしい
6
ながいながい 帰路は
孤独と呼べるほどには浅い
私の存在を、気持ちを
線路敷きの上に置いて
どこにもいかぬ砂利のようにさせて
7
目覚めと忘却は
名もなき駅名を渡りながら
つないでいく、おくにおくに
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