夜間飛行/恋月 ぴの
それとも目の前の白桃を味わい尽くすべきなのか
どうやらCAも同じことを考えていたらしく
扉との無駄な格闘を諦めて再び俺に跨ってきた
「こんなときでもちゃんと出来るもんだな」
俺は狂った白桃を強く掴みながら独りごちる
死の瞬間まで生を繋ごうともがき続けて
これが死だと実感すること無く死に至るようだ
腕時計の差す時間が正しいのなら機体は駿河湾上空のはず
俺は何年か前の今日の日に起きた大惨事を思い出した
そうか同じ日の同じ時間、同じ場所ってやつなのか
どうやら、あの時のあの山が俺達を呼んでいるらしい
漆黒に聳え立つあの山へ旋回していくのを感じる
喘ぎながら激しくなるCAの動きに合わせ
俺の耳に届き始めるのは、あの山からのあの歌声
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