驟雨の足音、あどけなく/たりぽん(大理 奔)
 
夜を乗り越える呪文
古いノートの落書きから思い出す
詠み方を忘れた大人には
雑踏に落ちている足音に似て
あどけなく残酷な

季節を乗り越える呪文
変色した写真の束から探し出す
今日しか知らない子供には
雷雲から降る雹(ひょう)に似て
無意味な恐怖だけで

本当に乗り越えてきたのだろうか
心ごまかして呪文を詠みながら
「みんなとおなじ」を「普通」と
「みんながすき」を「孤独」と
そんなふうに塗り固めて

自分を乗り越える呪文が
あることすら知らなかったから
誰かの名前を呼び続ける
二人でなら同じ足音
驟雨の音でかき消せる

互いしか知らない
季節の匂いを
あどけなく残酷に


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