夏の次の季節/明日殻笑子
ま絡みつく波と遊んでいたら
いちばんお気に入りの帽子が飛ばされてしまった
だけどわたしはすぐに追いかけたい気持ちと
鳩尾まで浸かった夢の中とを天秤(はかり)にかけて
あの玉を七つ全部集めたような傲慢さで後ろをふり返った
気がつけば首まで夢に浸かってしまっていて
あらわれた灰色の影に思わず何か言いかけた瞬間に
頭の尖端(さき)まで夢の中に埋もれてしまった
何時の間にか高く遠く晴れ渡っていた空が
涙が目元で息絶えた時のように滲んで見えて
罪なきその青にひかれるように腕をのばした
――海の味が体中を浸しつくしたのがこわくて
呼吸よりずっと先に目をさました
脱ぎっぱなしの洗濯物
ああ此処はこんなにも散らかっている
戻ってきた このちいさな部屋に
戻ってきてしまったんだと――
汗か涙か感情に混沌としながら
夕暮れの赤が灼けた肌にあまく染みてゆくことだけを感じていた
夏の次の季節が秋だということを
わたしはずっと知らなかった
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