彼女たちは野へ/がらんどう
や青い打ち身の痕が覆い尽くしていた。そして、その女の後ろから覆い被さるように腰を振る黒っぽい肌の生き物が見えた。その大柄な生き物は「猿」という通称のとおりよく猿に似ていた。だが、それは(認めたくはないが)猿よりもずっと人間に近い生き物であった。
私はふと「真の男は性器を持たない」とアルトーが書いていたことを思いだした。その言葉がこの光景と関係しているものかどうかは私自身よく分からないのだが、その言葉がふと浮かんだのであった。
「どうです。こんな風に自らを被害者に、暴力の対象に仕立てあげているのですよ。欲望されるものとしての自身を欲望して、自家中毒を起こしているのですよ」
彼は戯れの色を浮かべながらそう口にしたが、私はまた別のことを考えていた。自らの肉体を祭壇とし、自らを他者への供物として捧げる彼女たちは、変わらず高貴なのだと。自らを貪り食われる肉と化す彼女たちは、むしろ私たちよりも人間の本質に近いのではないかと。そして、私は捧げるに足る何かを持ち合わせているのだろうかと。
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