しずく うつわ ゆび/木立 悟
風のなかを
水がそよいでいる
遠い水
互いに見えない ふたつの水
濃い影 薄い影の重なり
音は溜まり
低く連なり
夜の道を速くする
やわらかな菓子
指の跡
あたたかな夜
増えてゆく跡
水の絶えない器へと
緑の霧は降ってきて
水に触れては光に変わり
欠けたかたちを夜に浮かべる
そそがれるものの
そそがれるさきに
音は跳ねて 衣を脱ぎ捨て
はだかの水の胸に抱かれる
夢ならん 夢ならん
いびつさを乗せた清い手のひら
鳴りつづけ うたいつづけるは
ただそこなわれし風のかたちのみ
しずくの重さ
くちびるの火
現われては消え 現われる
肌と衣の折りめにひらく
ひとつの指が ひとつの器にたどりつき
欠けたうたに触れ 血を流すとき
夜はぽつりとしずくにかえる
しずくを伝うしずくにかえる
途切れてはつながる声のように
しずくは器を震わせる
息をするものが息をとめるまに
音は次の水花を喰む
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