名前の無い街 /服部 剛
 
  * 

駅構内の二階通路に立ち止まり 
ガラスの壁から
人々がすれ違うスクランブル交差点を眺める 

ビルの上空に昇る太陽を反射して 
誰かが落としていった涙の水晶が
無数の足の隙間に光った  

( 無数の足音が響くアスファルトの下 
( 戦時中に途切れた亡き者達の余生は
( 時間を止められたまま埋もれている  

駅構内の二階通路に力無く立つ僕は 
来る当ての無い人を待っている 

日々無数の足に踏み固められるアスファルトの
下に埋もれた声に耳を澄まし
仮想の時代を掘り起こす 幻の人 を 




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