転居届/霜天
 
見知らぬ人から葉書が届いた
元気ですか、とだけ書かれているそれに
元気ですよ、と応えてみても
一人の部屋は結局一人だった

置いていかれた
この街も、いつの間にか色が薄くなってきている


昨日は西瓜を買ってきて
勢いよく包丁を入れると
切り口から波が溢れてきて
部屋に残った君という君が
みんな、水没してしまった
西瓜は海、だった
そんなことも忘れてしまっていた


見知らぬ人から葉書が届いた
元気ですか、とだけ書かれているので
元気ですよ、と返信してみることにする

放り出された窓の外では
夏が今も戦っている
この街にも道は幾通りもあって
それぞれに地図を持たないから
とぼとぼ、と
歩いてみるしかない

筆を探しながら
覗いてみた空では
飛行機雲が一本、通り過ぎていく
あの道を追いかけてみたい
追いついてみたい


置いていかれた
塩味のする部屋があった
真新しい葉書に
元気ですよ、とだけ書いて
その後が続かないことに
なぜか、焦ってしまう
戻る   Point(7)