「おトイレで、まってます」/加藤泰清
 
食いしばって白目をむいている)
他人<ひと>よりも若干前にでた
あごの先から
あまった汗がポタポタと落ちている
着地点は便器の中で
ピチャンピチャンとなにかが跳ね返る音がする
(糞である糞である糞である糞である)
耳をふさぐこともできず
耐えがたい凌辱の最中<さなか>
この二十一世紀の
数ある先進国に設置された
水洗便所でないこの便所を
心から呪った
(糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞)
彼女は数時間後にあらわれた
バケツに水をくみ
個室の上の空間からそれを投げ入れた
笑い声と臭気にむせたような咳が木霊した
床には水と
便器に溜まっていた糞のようなものが散らばった
私は勝った
ラブレターのようなものを握り締めて
そう思うことにした
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