梅雨、列車は停滞する/美味
この眠れない夜
少し開いた窓の隙間から
カーテンの裾を揺らすのは
頬を掠めるひやりとした夜風
紛れ込んできた露の雨音に
畳の匂いが、一層、濃くなる
月があるわけでもないのに
外は仄かに暗く
雨の足跡が雲に映り
私は密かに訪れる列車を待つ
たわわに実った梅の瑞々しい果肉が
どこまでも途絶えの無い線路に
成熟した香気を晒して
薄紅色の花を思わせる
しと、しと、と
控えめな汽笛が鳴り止まない
列車はただ、じっと
乗客を待って、留まっている
いつか貴方の乗った列車は
知らない誰かを待って
静かな夜を泣いている
空が薄らと白み
小鳥の囁きが聴こえるころ
私は静かに目を覚ました
この気だるい身体は
既に列車がいなくなってしまったことに
気づいている
私はただの一度も濡れることがないまま
夏が光を漏らしている
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