誰のどこの細胞だろう、これは?/下門鮎子
 
地球をおおう大木に生るひとつの実としてのわたしは

わたしは?

わたしは
何を言おうとしたの?

地球をおおう大木に生るひとつの実
とはつぶやかれたので脳に録音されていた
それよりほかの
言葉に逃げられたわたしのところでは
なにも分からなくなった

(これは何?)

だから
細胞壁の魅力にとりつかれたように
わたしは分ける
「世界の真ん中にいる動物は?」
というなぞなぞとともに
せかいを背と蚊と胃に分けて
子どもみたいに喜んでいる
この細胞たちが
どんな個体を
形づくって
いるのかも
知らない
まま

(これは誰のだった?)

フーゴーは何を夢見る
人間の言葉をなくして
あなたが得た新しい言葉は
本当は新しくなんかなくて
小さいころに知っていたもの

(誰のどこの細胞だろう、これは?)

あなたはこぼした水を
元通りにしたの、たとえば
タオルにしみこませて
またしぼってコップに入れたとか。
それとも
新しい水を入れたの、だとしたら
その水はどこから来たの?

(そもそも最初の水はどこから?)
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