白の発光体/新谷みふゆ
 
ラジオからはアフリカの音、マリとしか憶えられ
なかった歌は、その美しさだけをカーテンの隅に
残し、此処に、初夏に、近付く朝がしんと明ける、

よく晴れた日の昼間でも電気をつけないといけな
い奥の台所の流しの傍では、小さな小さな蜘蛛が
這い出し、知らない何処かへ向かおうとしていた、

朝の冷たい水を飲みカーテンを引くと、光がテー
ブルに集まってくる、それはまるで白い蝶の群れ、
なにをするわけでもなくあたしはみつめてしまう、

やがて蝶がおとなしくなり眠るテーブルには、テー
ブルクロスとカップと匙とノートと鉛筆と・・・、
それらはいったい何羽の蝶を抱いたのだろう、


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