サハリーニャ/クリ
 
を見て目覚めた深夜のことだった。「千代の夢を見た」という珠恵を慰めたのは、父親だった。珠恵の覚えているかぎり、父親がそのようなことをしたのはこの時が最初で最後だった。「札幌にいたら、いつか、必ず会えるから」と。ずっとあとで次第に分かってきたことがある。父親は千代の素性を知っていたらしいこと、もしくは千代の肉親か親類を知っていたらしいこと。しかし、詳しく聞きだす以前に、父親は世を去った。
 常は厳格な父親が「寝なさい」とだけ言い残して、少し離れた布団に戻っていった。しばらく背中をさすっていてくれた母親の手も止まり、また周りの人々の寝息だけが聞こえるようになっても、涙は止まってくれなかった。
 珠恵は泣き疲れて、悲しくて、胎児のように丸くなった。


                                         Kuri, Kipple : 1999.08.04
いつまでも書きかけの長編の冒頭です

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