決裁/たもつ
 

飛び込むと
その先には砂漠が広がっていた
課長がいて
砂粒をひとつひとつ数えていた
課長
声をかけてみた
砂漠では名前で呼んでください
と言われたけれど
課長は課長だったので
知っているなかから
生まれて初めて覚えた名前で呼んだ
課長はにっこりと微笑み
僕の名前を読みながら
決裁にはんこを押してくれた
改めて聞くと
美しい名前だった
それから
今日の天気のことや
正しい魚の煮付けの作り方を
教えてくれた
僕が教えてあげられるものは
何も残ってないので
砂粒を数えるのを手伝った
暑いね、と汗を拭った
課長のハンカチの柄を
いつまでも忘れないようにした


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