「紗夜」/木賊ゾク
防空壕で会った
一人の女の子は
震えていた
私の背を撫で
「怖ガラナクテモイイ」
と確かに云った
今でも覚えている
忘れようがない
魔女の瞳
秘密隠した瞼
腰のまで延びた
真夜中の黒髪
白蝋の肌
瞼から頬を舐める
紅黒い傷跡
頭から離れない
白い朝の光や
夜の闇にさえ
共感覚を覚える
恐怖の中にあなたが住むように
時折
あの日
防空壕で聞いた
なぁなぁの雨の音の昼下がり
雨の日は
あなたに会えるような気がして
玄関から
傘も差さすに
走り出す
すぶ濡れの
継ぎ接ぎだらけの
私は
大切なことに気づく
ああ
あなたはどこ
あなたはどこだ
夢の中でしか会えないのか
それともいないのか
あなたはどこ
あなたはだれだ
私の中に残された
僅かな記憶が
居場所を
指差している
ただ私には
もう見えなくなってしまった
あなたは今も防空壕の中
小さな私の背を
撫でている
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