まほろばの経験/前田ふむふむ
 
神ながらのみちが、白い礼拝に着飾って、
硬き悠久の朝焼けを、
広がる瞑目のなかに飲み込んでいる。

かつて、山々のふところで見た、
老婆が瑞々しい花々を見つめて、合掌をした
直き美しさを、いま、わたしは、痩せた記憶の糸で
手繰り寄せて、引き継ごうとして。

滔々と流れる古代の空は、
わたしの冷めた素姓をいたわり、
いつまでも低く青々と波打ち、
赤ら引く太陽の気高き地平は、
わたしのなかに、遠きはらからの夢を身篭って、
金色の雲を浮かべている。

若々しい記紀の息吹き――

伝承された叙事は、天孫の来歴を寿ぎ、
八百万の神々の巧みに編み上げられて、
先人の風俗を平明にまぶしている。
わたしは、畝傍山の木陰に至りて、
古式和歌を朗々と読めば、
うすく立ちのぼる声は、
土着の大和路に佇む、たくましい神話の言霊を、
開かれた俗界の中庭に、煌き導いてゆく。


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