まほろばの経験/前田ふむふむ
幾たびも、ひたむきに萌え上がる、
いにしえの稲穂の原景が、
小走りに薫りたって
遠き草創のまほろばの底流は
大和から飛鳥に、涼やかに下ってゆく。
万葉のけむりを煽り、
壬申の衛士の錐立つ空を傾けて、
交わりを試みる、爛熟した往時の伽藍は、
精緻な律令の盛衰に、悉く流れ落ちる。
翻訳された思想の脆弱な掌から、
手に鍬をもつ情熱の親しさが、零れ出でて、
成熟した耕地を、
わたしは、嬉々として踏みしめてみれば、
浮き上がる精悍な風土は、
墳墓にとどまる埴輪の純朴を覗かせている。
東方の空にむかい、雄々しくひかりを浴びるとき、
質素な農夫の衣服を纏った、
神な
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